【健康コラム】イボとお灸と私 解説編(『イボと私』シリーズ第3回) 2019
10/31
『イボと私』第3回 『イボとお灸と私(解説編)』
〜これまでのあらすじ〜
指に出来たでっかいイボを取り除くため、皮膚科で炭酸ガスレーザーをあてて灼いてもらう私。
が、灼けてイボが小さくなったと思ったら、すぐに育って元に戻る……の繰り返し。業を煮やした私は、イボが元に戻る前に連続でレーザーで灼く事を希望する。
しかし、1週間に1度以上の治療には保険が適用されない……という大きな壁が立ちふさがった。さあ、どうする私?
詳しくはこちら↓
『イボとマッサージと私』
『イボとレーザーと私』
……というわけで、同じ灼くなら、焦灼灸(しょうしゃくきゅう)で灼くのも、レーザーで灼くのも、同じではないかと思い至ったワタクシ。
思い立ったら吉日。その晩から、毎晩麦粒くらいの大きさにまるめたもぐさをイボの上にこんもり乗せて、じゅうじゅう灼いてみることにしたのでございます。
さて、ここで解説。
巷間で、女性疾患や冷えにいいと話題になっているお灸ですが、そもそもお灸ってどんなもの?というご質問をお客様から頂いたので、ざっと説明してみますね。
↑瓶の中に入っているのがせんねん灸、缶に入っているのがもぐさ。せんねん灸はライターを、もぐさはお線香を使って点火します。
お灸とは、もぐさ(よもぎの葉の裏に生えている、白い細かい毛を集めて乾燥させたもの)を軽く指で丸めて皮膚におき、火を点けて燃やし、その熱で身体のツボを刺激し、体調を整えていく民間療法のひとつ。
三千年ほどの前の中国北部で発祥し、それを学んだ遣隋使や遣唐使が仏教と共に灸法を広めたのが、日本でのお灸のルーツとされています(昔のお寺は布教以外にも、地域の孤児院や学校、お医者さんの役割も果たしていました)。
お灸には、目的に応じて、いくつかのやり方があります。
まず一番の大きな違いは、火傷痕を残すか、残さないか、です。
①もぐさの燃焼している部分を、直接皮膚にあてないようにする(火傷痕をのこさない)
➁もぐさの燃焼している部分を直接皮膚にあてて、軽く皮膚を焦がすようにする(火傷痕をのこす)
最近の鍼灸院では、美容的、衛生的観点から、①の無痕灸が主流です(温灸ともいいます)。一口に無痕灸といっても、いくつかのやりかたがあります。
a.知熱灸
お米粒の半分くらいの大きさにまるめたもぐさを、狙ったツボの上に置き、半分から3分の2位燃えたところで、もぐさを指でつまんで消火してしまう方法。
患者さんには、熱のちくっとした刺激は伝わりますが、直接火が皮膚まで届くわけではないので、火傷は起こしません。
当店(はり灸指圧治療ぬくまる屋)では、逆子の灸やものもらいの灸など、指先のツボをピンポイントで狙いたい時に、この方法を使っています。
b.棒灸
たばこのように紙で巻いて細長い棒状にしたもぐさの先に点火し、燃焼部分を患部に近づけて、放射熱で温める方法。
じっとしていられないお子さんに使ったり、髪の毛周辺など、お灸を直接乗せて火を点けるのが難しい部位を温めるのに使います。
私もこどもの頃、喘息発作を起こした時に、この棒灸で背中を温めてもらっていました。
c.隔物灸
もぐさと皮膚の間に、生姜やにんにくをスライスしたもの、または塩や味噌などを挟むことで、もぐさを燃やしきっても皮膚に火が直接あたらないようにする方法。
熱とともに、間に挟んだ生姜などの成分がじんわり浸透して、身体にいいとはいわれますが、そこは私はよくわかりません。ただ、ほどよく暖かくて気持ちの良いお灸であることは確かです(あと鍼灸院全体が、なんだか食欲をそそる匂いでいっぱいになる^_^;)。
薬局で市販されている「せんねん灸」も、この隔物灸の一種。ちいさな筒状にくるまれたもぐさの下に、厚い不燃性の台座を挟むことで、火が直接皮膚に当たらないようにしてあります。
当店で使っているのも、基本はせんねん灸です(台座の裏にシールがついていて、しっかり皮膚に固定されるので、お灸をしながら他の部位のマッサージをすることが可能になります)。
その他、バリエーションとして電気温灸や、びわの葉灸、イトオテルミーなどがありますが、これらも温灸の一種であることには変わりありません。
そして、➁のお灸を有痕灸といいます。つまり小さなやけどをわざと皮膚の上に作ることで、身体全体の免疫力をあげる方法です。
A透熱灸
お米の半分くらいの大きさに小さくまるめたもぐさを、ツボの上にのせて、焼き切ります。皮膚の上には2,3日で治る小さな火傷ができます。火傷は皮膚の表面を焦がす程度の浅いものなので、痕はほとんどのこらないし、強めの刺激が好きな方に向いています。
B打膿灸
昔銭湯に行くと、脚の側面や背中に規則的に黒い点々がある、おじいちゃんやおばあちゃんをみかけませんでしたか?あれが打膿灸の痕です。
打膿灸とは、わざと強めに皮膚を灼くことで、深めの火傷をつくり、膏薬などを使って痕を化膿させることで免疫力を高めようとする方法です。昔は膿をつくるくらい火傷させないと、身体の免疫力が高まらないと考えられていたので、この方法が普及していました。
しかし戦後の研究で、わざわざ火傷をつくらなくても、熱で「あちっ」と思わせるだけで、身体が火傷したと勘違いして、ないはずの火傷を治すべく免疫機能が活発に働きだすということがわかってきたので、現在は美容的な観点と細菌感染のコントロールの難しさから、ほとんど行われることはありません。
C焦灼灸
イボやウオノメに、大きめに丸めたもぐさを直接乗せて灼ききることを繰り返し、組織を焦がして破壊する方法。
……というわけで、私の指のイボに使ったのは、最後に解説した焦灼灸です。
鍼灸師になってからこのかた、知熱灸、透熱灸はさんざんやってきたものの、こんなに強い灸法を実際に使用するのは初めて。どきどきしながら実践に臨んでみたのであります……。
次回『イボとお灸と私(実践編)』。さて、お灸は私のイボを灼き尽くすことができるのでしょうか?
※この記事は2017年8月に、口コミサイト『しんきゅうコンパス』に載せたものに、加筆修正したものです。
西川口 蕨 鍼灸マッサージ
はり灸指圧治療 ぬくまる屋 店主 あいざわゆきこ
〈【注意!】このコラムで紹介している、イボに対する一連の治療法とその結果は、あくまでも私自身が体験したものであって、全員に当てはまるものではありません。また、最初は必ず皮膚科のお医者さんに診てもらって、悪いものではないことを確認してもらってください。素人判断は、時に危険な結果をもたらします〉